「年の晩の火」
「年の晩の火」という昔話があります。
むかし、むかし。明日は正月という年の晩に、旦那が下女に、
「今夜は火を消やさん晩じゃから、おまえは火を消やさんように気をつけていなさい」
といいつけて、休みました。
下女は旦那のいいつけを守って、火を消やさないように、いろりのそばで火の番をしていましたが、昼間の仕事の疲れで、つい、うとうとと、眠りこんでしまいました。
はっと気がついたときは夜中で、見ると、いろりの火は消えてしまっていました。
「こア、申しわけがなか。だれか火を持った人でも道を通らんどかい。」
下女はたいそう心配して、道に出てみました。
ところが、向うから、あかあかと、たいまつをともした人びとがやってくるではありませんか。
「あのあかりをもらわんにゃいかん」
と下女はうれしくなって、人びとが近づいてくるのを待っていました。
ところが、それは葬式の行列でした。しかし、下女は火をもらわねばなりません。
「どうかその火を分けてくれませんか。じつは旦那さんが、今夜は決して火を消やすなといわれたのに、火を消やしてしもうた。
明日は旦那さんに申しわけがなかが、どうかその火を分けてくれませんか。」
すると、行列の人がこういいました。
「火はくれてもよいが、おまえはこの死人の棺桶を今夜一晩あずかってくれんか。」
「はい。もう、しょうはありませんから、あたいがあずかりますから、どうか、その火をわけて下さい。」
こうして火をもらった下女は、棺桶ももらって、その棺桶は物置小屋にいれておきました。